2019年4月8(月)から4月14日(日)までの北朝鮮の動向 金正恩、国家首班に?

金正恩、国家首班に?

2019年4月8(月)から4月14日(日)までの北朝鮮の労動党機関紙『労動新聞』、国営テレビ『朝鮮中央テレビ』などを通して分析した今週の北朝鮮の動向です。

1.政治構造改編?

4月 8日(月)から14日(日)の1週間、北朝鮮では9日党政治局拡大会議、10日党全員会議、11日最高人民会議初会議、そして12日には最高人民会議2日目の会議が開かれるなど重要な会議が続き、このほとんど同時期にワシントンで韓米首脳会談が行われました。

朝鮮半島分断70年あまりの歴史上、同じ時間帯に米国、韓国、北朝鮮の首脳が各々、朝鮮半島情勢の流れを主導しようとしたことはなかったでしょう。それほど互いに譲らないという神経戦が激しくなっているという証しといえます。

この期間、北朝鮮の動向で注目される点は、まず金正恩が北朝鮮を正常な国家のように見せるために政治構造の改編に相当な神経を注いだという点です。

金正恩は今回、最高人民会議を契機に、首領が代議員職にまずなり、最高人民会議選挙を通じて国家首脳職へと上がる伝統をなくしてしまいました。

そして、国家指導機関を選挙する最高人民会議第14期1次会議初日の会議に参加しないことで北朝鮮の歴史上、首領の参加なしに代議員だけが国家指導機関を選挙する姿を初めて見せました。北朝鮮も国家のトップを国会で間接的に選挙する間接選挙制に基づいた正常国家であるということを対外的に知らしめようとしたのです。

金正恩は国務委員会委員長に推戴された後ようやく最高人民会議2日目の会議に現われて施政演説をする場面はまるで自由民主主義国家で間接選挙により当選した大統領の就任演説を彷彿とさせました。

また、29年ぶりに祖父、金日成が使った「施政演説」という表現も出ました。

14日付の『労動新聞』は金正恩に初めて「朝鮮人民の最高代表者」という表現を使ったことから考えると崔竜海の最高人民会議常任委員長職ではなく、金正恩の国務委員長職が対外的にも北朝鮮を代表する、そう憲法が修正されたのではないかとも思われます。

北朝鮮はまだ憲法修正の具体的な内容を明らかにしておらず、事実確認はできませんが、今後、海外駐在の北朝鮮大使を任命する信任状が誰の名義で出されるか、国家勲章や栄誉称号が出る際も誰の名義で発表されるのかを見れば明かとなるでしょう。

6.12シンガポール合意ではトランプ大統領と金正恩が署名しました。しかし、トランプ大統領は憲法上、国家首班ですが、金正恩は憲法上、国家首班ではないので、法律的に両国首班がサインした合意ではないという法律上、構造的欠陥がありました。

北朝鮮がこのような法律上の問題を考慮して金正恩の国務委員長職務を国家を代表する職責に修正したならば金正恩が今後は北朝鮮の「国家首のトップ」となります。金正恩が憲法上、国家首班になったからといって外国全権大使などの外交使団すべてに会うわけではありません。

金日成が国家主席の際も健康が良くない時は林チュンヂュ、朴サンチョルなどの副主席が金日成の代わりに外国大使からの信任状を受けとりました。ですから、しばらくは崔竜海常任委員長が金正恩の代わりに外国大使からの信任状を受けとったからといって異例なことではありません。

2.北の今年の予定表とは

今年上半期内には首脳会談が開かれにくい状態にあり、対南ラインや対米外交ラインの交渉幅も相当狭まりました。

金正恩はハノイ会談決裂から43日後に会談決裂に対する公式的な立場を住民に伝えました。43日間、ハノイで不意打ちの記者会見、3月 8日付の『労動新聞』通じて迂迴的に一度、 3月15日には崔善姫次官の記者会見を通じて対外的に一度、抗議のような形をとりましたが43日間北朝鮮が首脳会談決裂という大きな事件の後にも外務省の代弁人談話や声明を一度も出さずに沈黙を守って来たということはそれほど内部で今後の行方についての苦悩が大きかったということが窺えます。

金正恩は今回の施政演説で米朝首脳会談と南北首脳会談再開の条件をとても高く、明白に、 しかも公開的な方法で提示しました。

韓国政府には「仲裁者」「促進者」にならずに「しっかりしなさい」と不満を示し、米国には今の計算法を畳んで新しい計算法を持って来れば話し合うと言いながら今年末までという期限までつけました。

金正恩が米朝首脳会談を「もう一度はやる用意がある」と言いながらも、「長期戦」という表現と「今年末まで」という表現を混用したことは少なくとも上半期には動かないという意味とともに、2020年米国の大統領選挙で再選という政治日程に追い回されているトランプ大統領が終身執権者である金正恩より「長期戦」にもっと不利だという点を知らしめることに目的があります。

金正恩は、「今この席で考えてみると、制裁解除を渇望して、米国との首脳会談にとらわれすぎる必要はないと考えるようになります」と言及することでハノイで解除を強く要求したことが結果的に北朝鮮の弱点を露出させる戦略的失敗につながったという点も間接的に認めました。

結局、もはや一般住民に現在の流れがすべて知られることとなり、これから米朝首脳会談でも南北首脳会談でも米国や韓国が北朝鮮の要求に合わせて少し変化したことが分かる内容が事前に認められれば金正恩も首脳会談に臨むことになります。対南ラインでも対米外交ラインでも首脳会談を推進する実務陣の交渉幅はしばらく狭まるほかないでしょう。

3.人事異動による力関係に変化が

今回の人事異動を通じて北朝鮮は「第 2人者」も「金正恩-崔竜海-朴ポンジュの3人体制」でもない「金正恩唯一指導体制」をさらに固めました。

今回の最高人民会議を契機に傍目には北朝鮮が正常国家へ少し近づいたかに見られますが、その内容は金正恩の「一人絶対権力構造」がさらに強まりました。

金正恩が施政演説で「私は」という表現を何度も使いましたが、北朝鮮の党と国家を代表して政策方向を明らかにする施政演説では「私たちは」「われわれ党と共和国政府は」という既存の公式表現の代わりに「私は」という表現が入ったのは今回が初めてです。

金日成も「私は」という表現を内部の会議では使いましたが、党大会の報告書や最高人民会議の前で行う施政演説で使ったことはありませんでした。

今回の人事異動で崔竜海は党組織指導部を担当した党副委員長席から最高人民会議常任委員会庁舍に引っ越ししました。北朝鮮で権力は序列順位ではなくその人物に「幹部権、 表彰権、責罰権」という3種の権限があるのかということと「首領への接近性」がどの程度なのかによって決まります。ところが、「3種の権限」を持っている人物は絶対にその席へ長くいることはなく、入れ替えが頻繁に行われます。

崔竜海が北朝鮮のすべての実情を掌握し統制する党組職指導部庁舍を離れて、一日中座っていても外国使節の外にはあまり尋ねて来る人がいない最高人民会議常任委員会庁舍に引っ越したということはそれほど力落ちたことを意味します。

朴ポンジュ内閣総理が党中央委員会庁舍に入りましたが、党庁舎に入って北朝鮮の経済司令塔に新たに座った金ジェリョンを党籍で後援してくれという意味であって朴ポンジュが崔竜海が担当した組職指導部を担当したようではないようです。

これから少なくとも 1、2年ほどは今回党副委員長となった李マンゴンが党組織指導部を導くでしょうし、おそらく実権は金正恩を側近の距離で補佐するチョ・ヨンウォン第1副部長が多く握るでしょう。

今回、金正恩と党中央委員会委員らとの記念写真を見ると、外務省1次官に昇進した崔善姫の横に前外務省1次官の金桂冠が立っていますが、金桂冠はハノイ会談決裂による問責ではなく健康に問題があり2線に退いたようです。

今回の人事異動を見るとこの1年間、南北と対米関係まで主導して来た金英哲の対南ラインでの力は少し落とされ、今後、対南事業は金英哲の統一宣伝部が、対米事業は本来どおり外務省が専担する格好で分業が明らかになったようです。

4.対北制裁の影響じわり

今後の北朝鮮経済で軍需工業の比重が低くなることと見込まれます。

金日成、金正日時代には北朝鮮経済がどんなに苦しくとも経済・国防並進路線をうち立てながら軍需工業が民生経済よりも常に優位にありました。金正恩時代には核・経済並進路線をうち立てながら何年間も資金をつぎ込んで疾走してきました。

「苦難の行軍」の時の金正日は数百万の餓死現象を見ながらも軍需工業予算を一銭も民需に回すことができないようにしていました。

しかし、これからはこのような経済構造では長期戦に耐えられません。

軍需工業が密集している慈江道委員長である金ジェリョンを内閣総理に任命して軍需工業を主観した李マンゴンが党副委員長となるなど去る十数年間、軍需工業に携わった多くの人々が民需工業へ向かっています。

これから軍需工場が民需工場へ構造改編されれば国家も彼らを養わなければならない負担から脱し、軍需工場を民需工場のように独立採算制で運営すれば国家予算の増額にも役に立つでしょう。

北朝鮮が史上初めて軍需工業を減らす措置をとること自体が現在の対北制裁が北朝鮮経済の隅々まで浸透していることを意味しており、制裁に追われた金正恩がこれから、「制裁長期戦に自力更正で耐えられる代案」として国防工業に対する投資を大幅に減らす構造改編を断行するしかない状況にまで追い込まれたことを示唆しています。

総体的にこの一週間、北朝鮮の動向と金正恩の施政演説の内容を見ると、北朝鮮が現実を認める方向に動いていて、金正恩も北朝鮮統制の限界点を感じているということが窺えます。

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